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旭川簡易裁判所 昭和50年(ろ)38号 判決

被告人 山田正

大一三・六・一〇生 水道工事従業員

主文

被告人を科料二、〇〇〇円に処する。

右科料を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、昭和五〇年一月三一日午後一時二〇分ころ、旭川市本町三丁目付近の地下歩道において、何ら非常事態が発生しないのに、同所に、非常の際、これを警察官に通報するため設けられていた非常ベルのボタンを悪戯で押して、旭川市旭町一条三丁目所在、旭川警察署旭町警察官派出所内の、右ボタンに接続して設けられていた非常ベルを鳴らし、同派出所内において警戒勤務中の同署警察官司法巡査石金敬一他二名を、直ちに右地下歩道に臨場させ、もつて他人の業務に対して、悪戯でこれを妨害したものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為は軽犯罪法一条三一号、罰金等臨時措置法二条二項に該当するところ、所定刑中科料刑を選択し、その所定金額の範囲内で被告人を科料二、〇〇〇円に処し、右の科料を完納することができないときは、刑法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項但書により被告人に負担させないこととする。

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、被告人が本件犯行当時飲酒酩酊のため心神耗弱の状態にあつたと主張するが、証人佐々木亮、同松原哲男の当公判廷における供述および被告人の司法警察員に対する昭和五〇年一月三一日付供述調書によれば、被告人は当時多少酒に酔つていたとはいえ、事理弁識の能力に影響を及ぼすほど深く酔つていなかつたことが明らかであるから、右の主張はこれを採用することができない。

(主たる訴因に対する判断)

軽犯罪法一条一六号の犯罪または災害の事実とは犯罪または災害そのものについての具体的発生事実をいうものと解する。これを本件についてみるに、前記証拠によれば、本件非常ベルは「このベルは旭町警察官派出所に通じておりますので非常の際は釦を押して下さい」。との掲示とともに一体をなして設置されていた事実、そのもとで被告人が本件非常ベルを押した事実が認定でき、以上の事実に鑑みると、被告人の所為は、確かにその日時、その場所における、非常の事態の申出とは認め得るが、しかし、それのみでは、未だ同法一条一六号所定の事実としての具体性に乏しいものであるから、それを前提とする同法所定の虚構申告の訴因は認められない。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 野口利平)

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